香りを“美味しさ”へと導く手しごと。

香りを“美味しさ”へと導く手しごと。

香りは、感じるものではあっても、味わえるものではない。
だからこそ、「香りを食にする」という試みは、もっとも繊細で、もっとも困難な挑戦でした。

だいだいは、柑橘の中でもとりわけ豊かな芳香をもつ果実です。
その香りは清らかで、ほのかな苦みを含みながら、
他のどのシトラスにもない透明感を放ちます。

しかし、その美しさの裏側には、構造的な難しさが潜んでいます。
だいだいの果実は酸味が強く、渋みも際立つため、
香りと味覚のバランスが自然界のままでは噛み合わないのです。
香りを残しながら、苦味をやわらげ、甘さを重ねる。
その工程は、香料設計と菓子づくりの両方の知識がなければ成り立ちません。

香りは時間とともに変化します。
最初に立ち上がるトップノートの輝きを保ちつつ、
味としての心地よさを共存させるには、
温度、抽出、素材の組み合わせ、どれひとつが欠けても成立しない。

“香りを食べる”という発想は、
この果実のもつ矛盾を、長い年月をかけて整える作業でした。
そしていま、だいだいは「香りの美しさ」と「味の喜び」をひとつに結ぶ、稀有な果実として、ようやく完成しました。